歌が聞こえる

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歌が聞こえる。   誰だろう、こんな所で。 でも、良い歌だな、死ぬ前に聞くには良い歌だ。   誰が歌っているのかと周囲を見回してみるとすぐ近くに歌の主はいた。   白い女の子、そう思った。そして、こんな子まで、と。   「君も自殺しに来たのかい?」   大人として聞いておかねばならない気がした。 そう、ここは風吹き荒れるビルの屋上だ。眼下にはちょうど豆粒程度の人々が動いている。   「いえ、違うわ。君もということは、貴方は自殺をしにきたのね。」   違うのか。少しホッとしたような残念なような。 女の子は続けてきた。   「何故自殺なんてしようとするの?せっかく生きてる命でしょう?」   あぁ、こんな自分の子ども程の女の子に命について説かれるとは。   「いや、実はね、人を殺してしまったんだ、僕は。」   何故見ず知らずの女の子にこんな事を話しているんだろう、さっきの歌のせいだろうか。 また歌が聞こえる。再会したらしい。 僕は言葉を止める事が出来ない。   「といっても仕事上の事でね、僕が直接殺したとかではないんだけど、昔からの友人だったんだよ。その男はね、自殺したんだ。妻も子どももいたというのにね」 子どもに話す事ではない。と頭では思いながらも言葉は止まってはくれない。
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