歌が聞こえる

3/3
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「だから今日僕は死ぬためにここに来た、あいつが死んだ此処にね。」 柵も何もない屋上、一歩踏み出しただけで生命が消えるという感覚。 その中に響く歌声だけが別物だった。 なんなんだろう、この歌は。心を癒してくれるとでも言おうか。 命を洗ってくれる、そんな歌声だ。 僕は暫くの間ずっと聞いていた。 僕は何も喋らず、少女は歌う事しかしなかった。   歌が唐突に止み、少女は僕に話しかけてきた。 「貴方は死ににきたのではないの?それとも止める?」 この時僕の心はもう決まっていた。 「いや、止めるよ。もうちょっと生きるのを頑張ってみる、ありがとう、君の歌のおかげだ」 少女は僕に近寄ってきた、 「そう、それは良かったわ。ええ、とても」 そのまま、トンッと僕を押した。 「えっ」 僕の体が急速に、永遠の休息に向かっている感覚。死に心臓を鷲掴みにされたイメージ。 「だって私が殺さないとお父さんも浮かばれないものね」 僕は落下していく。   END
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!