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「だから今日僕は死ぬためにここに来た、あいつが死んだ此処にね。」
柵も何もない屋上、一歩踏み出しただけで生命が消えるという感覚。
その中に響く歌声だけが別物だった。
なんなんだろう、この歌は。心を癒してくれるとでも言おうか。
命を洗ってくれる、そんな歌声だ。
僕は暫くの間ずっと聞いていた。
僕は何も喋らず、少女は歌う事しかしなかった。
歌が唐突に止み、少女は僕に話しかけてきた。
「貴方は死ににきたのではないの?それとも止める?」
この時僕の心はもう決まっていた。
「いや、止めるよ。もうちょっと生きるのを頑張ってみる、ありがとう、君の歌のおかげだ」
少女は僕に近寄ってきた、
「そう、それは良かったわ。ええ、とても」
そのまま、トンッと僕を押した。
「えっ」
僕の体が急速に、永遠の休息に向かっている感覚。死に心臓を鷲掴みにされたイメージ。
「だって私が殺さないとお父さんも浮かばれないものね」
僕は落下していく。
END
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