歌が聞こえる二話

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俺が叫んだあの日から丁度一ヶ月たった。 歌はやっぱり毎夜聞こえてきたが俺が壁をノックすれば止まるようになったし、そこから始まるお喋りも生活の楽しみのひとつになっていた。 角部屋なのでもう片方は静かなもんだが。 このボロいアパートに表札なんて掲げてるやつなんていないしお互いに何故だか名前を聞きそびれたので名前も知らないのだが俺は隣人の女性に恋をしていたのかもしれない。 「今日も疲れましたよ本気で。割が良くても土方なんてやるもんじゃありませんね」 いつもの会話。 「一ヶ月たってもやっぱり敬語なんだね、何でなの?」 「何ででしょうね、まぁなんとなくですよ、俺達がお互いの名前を聞いていないようにね」 一ヶ月の間繰り返すように続けられた会話。 「何と無く、かぁ、うん、そうかもしれないね、理由がなくたって良いよね。でもね、名前を言わなかったのはちゃんと理由があったんだ」 「へ?理由?何か今更ですし、よしましょうよ」 この日、いつもと違うと思わなかったのは俺のせいなのか。
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