1995年12月20日 筧 要

2/2
前へ
/54ページ
次へ
私の仕事は、古本屋だ。 商売を始めたキッカケは、本の虫だったからだ。 店の場所は、市内や繁華街ではない。 あの丘の櫻の木が見える、郊外にポツンとある店だ。 周りには、少しずつではあるが、宅地造成が始まりつつある。しかし、あの丘の櫻の木が見えるなら、そんな事は気にならない。 私の店には、漫画や映画の類の本は扱っていない。扱う本は、辞典や歌集といった物が多い。 都会の大学の教授達が、私の店のお得意様だ。 今日も、いつもの時間に店を開ける。 朝からの冷え込みは、店の木戸を凍らせ、よく悪戯される。 木戸を押し開け、いつもの席に座り、日がな一日店の本を読み漁る。 あ…雪か? 店の軒先に、雪がちらついていた。 そう言えば、バスが来ないなぁ… 郊外のバスは、不定期が当たり前… お昼を告げてくれるのは、市内へ向かうバスが通る時間なのだから。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加