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いつものように、昼前にバスが店の前を横切っていく。
桜の木を見ながら、「夏」という題名の古びた歌集を読んでいると、女性の声がする。
あのーすみません…
見た感じ、19・20歳位の派手さのない、女性が何か申し訳なさそうに私に話掛けてきた。
お探しものですか?
いえ、教授…あ…尾崎教授から頼まれまして……
生徒さんですか?
はい…
大学生か…教授も忙しいとみえる。さて、生徒さんにこの店がどういった物か、分かるだろうか…
あのー
「四季」または「紅葉」が写り込むような、歌集か写真集を買ってきなさいと言われたのですが…
尾崎教授からの受け売りだろうか?前に教授がお見えになった際、「探して貰えますか?」と言われていた物だ。
私は、朝整理していた4冊の歌集を彼女に差し出す。
これなら、「四季」ではありませんが、「秋」をテーマにした歌と写真が載っていますよ。
かなり、値段は高いですが…
教授から預かってきました。
と、彼女はハンドバックから封筒を取り出し、私に差し出す。
冊子は、後程、大学の方へ郵送しましょうか?
あ…お願いします。
彼女は、俄か返事で返してきた。
私の話をよそに、店の本棚に見入ってしまっているようだ。
店員さん?
店長さんて、「春」や「桜」が好きなんですか?
どうやら、彼女は、私の事を店員と思っているようだ。
ええ…、美しくまた儚い桜は大がつく程好きですから。
彼女は、私の言葉に驚いた様子で…
ごめんなさい…店長さんだったんですね、判らなくて…
いいですよ、気にしないで下さい。
それよりも、生徒さんは、「桜」に興味がお有りですか?
はい…私の名前にもなってますから…
私の名前は、「尾崎 櫻」といいます。教授は私の叔父さんなんです。
……
……
そうなんですか…
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