†1st story†

11/20
前へ
/242ページ
次へ
その時   客の相手をしていた人が カウンターの、僕の目の前に座った。     思わず息をのむ。     「またお茶引きだわ」   そう言って 目の前の人は深いため息をついた。     ママの様に背が高いだけで普通の女性に見えたので   ちょっとホッとして 酒作りを再開した。     「あっ  お茶引きっていうのはね  指名客が一人もいない事をい うの」     ――慰めてほしいのか。 ……愚痴りたいのか。     僕は彼が何も言わないので、無言で酒を作り続ける。     そうしているとしびれを切らした様に、目の前の人は口を開いた。     「慰めてもくれないんだね。  冷たいなぁ」   ――彼からの応答がまだない。     「ま、いっけど」     その一言の後   僕は新しいお酒を作ってみた。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

585人が本棚に入れています
本棚に追加