突然

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いやだ。 いやだ 行きたくない。   いつかこの日が来ることは分かっていたはずなのに。 認めることが出来ない自分がいる。   言いに行かなきゃいけない。 菜月に。       本当だったら今年高校に入学するはずだった。 するはずだったのに。   日本は戦争を始めた。     すぐに親父は戦争に連れていかれた。 それから数日。 次々といなくなっていく親戚。 そして、友達。   そろそろ俺もか。     そう思わずにはいられなかった。       「くそッ!」       あの頃は冷静でいられたんだ。   なのに。       「…言えるわけないだろ」       言えるわけがない。 いつも隣で笑っていてくれた菜月に。   やめてくれ。 やめてくれ、こんなの。     一体何て言えばいい?   ありがとう。 じゃあな。 愛してる。     それとも。 帰って来れる確率なんてないに等しいのに、またな。って言えばいいのか? そう言って、笑えばいいのか?     分からない。 分かるわけがない。   どうすればいい?     なあ、菜月。 俺どうすればいい? どうすればお前を悲しませずにできる?         「菜月」         小さく小さく呟いた言葉は、静かに消えていった。
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