マったりしながら…

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草野球の練習後、僕と渋谷は、近くの銭湯に寄っていた。 練習が終わった後もこうして渋谷に付き合っているのは、僕らがあまり大きな声では語れないような秘密を共有していることが大きく関係しているわけなのだが、何故に銭湯なのか…というと、何のことはない。 この銭湯、客が少なく寂れておりいつ訪れても貸し切りな状態で、自分達が手足を広げて入っても余りある広さの浴槽で、料金も良心的となれば、練習でかいた汗を流すのには十分すぎる程の好条件なのである。加えて、他に人のいる場所では大っぴらには話せない事を話すのにももってこいときている。   そんな訳で、二人でまったりと貸し切り気分を満喫していると、横でタオルを頭の上に乗せて機嫌良く鼻唄を歌っていた渋谷が、 「なぁ、村田~?」 と、唐突に独り言を言うように話かけてきた。 「…んー、何~?」 僕も、何の気なしに返事を返す。 「…あのさ。俺、前にここで一回あっちの世界に飛ばされた時あったじゃん?」   …確か、あれは二度目のことだったか。渋谷は、水に纏わる場所から異界に移動する特殊体質の持ち主である。正確に言えば、持っているのではなく、交通手段の媒介として有無を言わさず利用されているだけなのだが…   「あぁ、そーいえばあったねぇ~。それがどうかした?」 「いや、俺が向こうに飛ばされる時って、よくよく考えたらいっつもお前が近くにいたよなー…って、思ってさ。」 「確かにね~。まぁ、僕は君の事情を知っている数少ない人間だった訳で、結果的にはオーライだったんじゃない?だって、考えてもみなよ。いくら目を離していたからって、突然目の前にいた人間が2、3分も姿を消せば普通の人間なら誰だって不信感を持つはずだよ?」 言外に鈍いと指摘された事が流石の彼にも分かったらしく、すねた口調で言い募ってきた。   「はいはい。…どーせ、俺は今更になって気付きましたよーだ。…いや、それにしてもタイミング良過ぎじゃね??」 どうやら、そこら辺を完全に納得できないのが不満らしい。 正直、僕にだって正確な意図は分からないんだけど、渋谷は僕が大賢者の生まれ変わりってだけで自分の知らない事は何でも知ってると思い込んでいる節がある。 …しょうがない。こうなったら、こじつけでも何でも、もっともらしい説明で彼を納得させるしかないか。
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