小さな物語達

バレンタイン

　バレンタインデー

　単なる製菓会社の陰謀だと分かっていても乗ってしまうのは、イベント好きの日本の悲しい性だろうか。

　謂われや伝統などはでっち上げに近くても、現代の乙女にとってはビッグイベント、いや、もはや開戦日である。

　そんな恋する戦乙女がここにも一人、

「………」

　恐るべき兵器を目の前に戦場(台所)に立っていた。

　その兵器は甘い異臭を放ち、表面には白いものが浮いている

　その横には何故かバニラエッセンスにフライパン。

「何で固まらないの!?」

　恋する戦乙女はこの物体の根本的な問題点に気づかず叫ぶ。

　まず、チョコにバニラエッセンスは入れない。

　その次に、チョコは湯煎で溶かすものだ。

　そんな基礎も知らず作った結果がこの物体。

「うぅ…今度こそ！」

　うなだれていた顔を上げ、再び包丁を手にクーベルチュールに立ち向かう。

　そして響くのはザクッという鈍い音と悲痛な声。

　戦乙女の聖戦は始まったばかりである。