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夕日が射し込む廊下に足音が響く。
「赤や青は分かるけど金色やエメラルドグリーンなんてどこに使うのよ…」
ブツブツ言いながら一人の少女が美術室から教室に戻ろうとしていた。
人の声は絶えないのに、廊下には誰もいない不思議な空間。
文化祭前の独特の空気。
ここでそれを楽しめるのも、今年で最後だ。
「綾香!早く絵の具持って来いよ!」
「わ!京介、いきなり声かけないでよ!」
綾香と呼ばれた少女は、落としそうになった絵の具をなんとか止め、京介の方を振り向いた。
そして
「ぶっ!?」
吹き出すと共に結局絵の具を落とした。
「バカ!何やってんだよ」
「だってその格好…」
現在京介の格好は、長い黒髪カツラに死に装束、こんにゃくを吊す竿にこんにゃくの入ったスーパーの袋といったなんとも奇妙な格好だ。
「あはは、お腹が…」
「笑いすぎだろ」
なんとか笑いを抑えようとするが、京介と目が合うと今度は二人して笑う。
他愛ない会話、くだらないことで二人で笑う時間。
それもあと僅か。
「京介」
「ん?」
「文化祭、成功させようね」
「ああ!」
二人は顔を見合わせ微笑み、教室へ向かった。
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