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「ねえ、あなたは夜の闇をどう思う?」
曇天の光射さぬ夜空の下、長いおさげの彼女に尋ねられた。
昼間の暑さは衰えず、痒みと空腹もあり眠りは浅い。
仕方なくこっそり外に出ていた。
「ねえ、どう思う?」
暗くて何も見えなくて恐ろしい。酷く寂しい。
それこそ、全てを塗りつぶしそうで。
そう答えたら、彼女はクスリと笑った。
「けど、全て平等に包んでるように見えない?太陽の光は影との境を作るのに」
そういって天に伸ばす手は、指の先から闇に包まれる。
よく分からないのに、その言葉は心地良く耳に染み渡っていたのを良く覚えてる。
「痒みや空腹で眠れない私たちを咎めること無く見守ってくれて、終わらない夢を見せてくれる。だから」
伸ばされた手が、闇から視界へと戻ってくる。
「だから、私は闇が好き、暗い夜が好きなんだ」
漆黒の視界をバックに、彼女は儚く微笑んだ。
翌年の夏、同じ場所に立ってふと思い出したその会話。
その隣に彼女はいない。
全ての夢、大きな何かが終わった日の数日前。
空から振った眩い光に灼かれて消えた。
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