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空には重苦しく雲が立ち込め、途切れることなく冷たい雨が降り注ぐ。
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地面を覆い尽くすように立てられているのは墓標。古い石造りの墓には真新しい傷が無数についている。
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大地に染みた血の臭いは、雨に濡れてなお取れない。
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「父さん、母さん」
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無数に立てられた墓の一つ。その前に一人の少年が立っていた。
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肌に張り付いた服は黒。手には傘の代わりに花束。
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「僕はこの一年でずいぶんいろんな人にサヨナラを言ったよ。友達も、親戚もみんな僕を置いてってしまった」
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降り続く雨は少年の頬を伝って地に落ちる。
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周りに居る黒の人影も、皆一様に地面を静かに濡らしていく。
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誰一人その場から離れない、誰一人互いに言葉をかわさない、誰一人顔を上げない。
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「でも…」
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そんな中、少年は一人顔を上げた。
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「いつまでも立ち尽くしてる訳にもいかないよね」
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雨音が遠のく。
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「頑張ってみるよ。みんなが歩けなかった道を、行けなかった先を、頑張って目指してみるよ。だから…」
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答えない墓に笑顔を向ける
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「だから…どうか見守っていて」
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花を手向け、少年は駆け出す。
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厚い雲の合間から、一筋の光がこぼれ落ちていた。
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