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「お前は『翼をください』って歌、覚えてるか?」
「小学生のとき歌ったあれか?」
「そうそう。保奈は毎回音を外してたあれ」
「ほっとけ」
ガレージに人の声が響く。
作業を続けながら話す青年を見下ろしながら、妙齢の女性は腕を組んだ。
「あの歌詞の一節に『子供の時夢見たこと 今も同じ 夢見ている』ってあったよな」
「ああ…今考えると有り得ないよな」
幼いころの夢を追おうとすると、歳を経るごとに現実を突きつけられる。
保奈ぐらいの歳になると、追っている人間なんていない。
「あんたも早く現実を見なよ。無理なものは無理だよ」
「…俺はまだ諦めてない
絶対自分の翼で飛んで見せる」
作業していた手を止め青年は保奈の方をしっかり見据えた。
後ろには小さな人力飛行機。
本当にこいつはまだ追っているのか。
とても、眩しく見える。
本当に、羨ましく思える。
「…勝手にしろ」
あんたには、まだ立派な翼があるんだな。
その言葉は言わずに保奈はガレージを出た。
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