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後は既に亡骸となってしまった者々の姿しかない。
微かに、幸村の側近が呼んでいる声が聞こえる。
「敵に背を向けるなど、本意ではないが…
貴方とはまた、手合わせしてみたいわ」
小十郎に背を向け、歩き始める幸村。小十郎は、思い詰めた様な表情を見せる。
「私は…貴女とは、戦場以外の場所で、会いたかった…」
即ち、幸村を敵視したくないと言う事。声色からして告白と思って間違いない。
「な!何言ってんのよ!」
詰め寄り、騒ぎ立てる幸村。最初こそ驚いたものの、小十郎を見上げる幸村の顔には、十五年前の面影が色濃く残っている。
気付いたら、小十郎は幸村の事を抱き締めていた。
「ようやく、会えましたね…昔と、変わらない…」
何が起こったのか解らない様子の幸村だったが、小十郎の事を思い切り突き飛ばす。
「離してよ!」
怪訝そうな表情で小十郎を見る幸村、小十郎は戸惑いを隠せないでいる。
「貴方、誰かと勘違いしてない?私は貴方と初対面のはずよ」
それだけ言って、小十郎の静止も聞かずに、自軍の方へと駆け出して行く幸村。
『覚えてない…?』
小十郎は幸村の後ろ姿を眺めていることしか出来ないでいた。
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