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お母さん、あたし明日東京に帰るけん。
次は結納のときに帰ってくるよ。おやすみなさい。
奈津美は仏壇の前で手を合わせながら、心の中で語り掛けた。
実家にいるときの習慣だ。冷たい階段を上り荷物の整理をし始めた。
一時間ほど作業をして、階下から父親の声が聞こえなくなっていることに気付いた。
先程まで、悪酔いした父親の、呂律のまわらない独り言が聞こえていたのに…。
奈津美の父親は酒癖が悪く、一人きりでも愚痴や文句を大声でまくしたてる。
その内容は実に不愉快で稚拙で、言葉遣いは汚い。
父親がそのような状態になると、奈津美も祖母も、そそくさと自室にこもるのだ。
奈津美は窓から一階の様子を覗いた。
居間の電気はついている…テレビもついたままだ…
またそのまま眠ってんだな
さっきよりもひんやりとした階段を静かに降り始めた。
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