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菫、という名前は祖母が付けた。雑草で人に踏み付けられるこの花の名前を付けることに、母は反対だったという。けれど、祖母はなんのためらいもなく私を菫と命名した。 私は子供のころ、この名前が大嫌いだった。地味な感じがしたし、何よりこの名前を好いていない母は、ほとんど私を名前で呼んでくれなかったから。母は今でも私を名前で呼ばない。「あなた」とか、「ねえ」とか、ぎこちない呼び方をする。 私がこの名前を好きになったのは、十五歳の冬だった。その日は誰かのお葬式だった。私は初めて名付け親の祖母に会った。それまでは、変人だからと母は祖母に合わせてくれなかったし、顔も見たことがない年寄りに、私もそこまで会いたいとは思わなかった。
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