さよならのこころ

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 大地は普通じゃない。  普通じゃないっていうと、誤解を生むかも知れない。変わってる、というのが正しい。  大地は人と同じことが嫌いなのだ。小さい頃から、みんなが選ばないことを選ぶ。易しい道をいかない。選んだことは、全うする。  カッコイイと思った。  ぼくは、そんな大地に憧れた。ぼくにはできないことを、さらりと熟す。ずっと憧れていた。ずっとそばにいたいと思った。 「それでも、遺書なんて、子どもが書くもんじゃないよ」 「だから、その子どもが書くのが、カッコイイんじゃんか」 「カッコイイっていったって、なに書いていいのか、わかんないよ」  大地から差し出された紙を、視線でなめる。 「なんでもいいんだよ」  大地が笑う。くちびるの端っこを持ち上げて、大人みたいだ。 「大地」  声が震える。怖くなって、手を伸ばす。大地の腕を掴む。 「なんだよ?」  大地が消えてしまいそうな気がした。遺書なんて、突然言い出すからだ。まとわりつくような不安が押し寄せる。 「あの、さ」 「あ、わかった。おれの携帯はおまえにやる。ちゃんと書いとくからな! 安心しろよ」 「バカ! なに言ってんだ」 「直樹、あれ気に入ってたもんな」 「おまえがじいちゃんになる頃にはもっといいのが出てるよ!」  大地が笑う。いつものからりとした笑い声をたてる。大地の服を掴んでいた指から力が抜ける。 「直樹、おれは大丈夫だ」 「なに、それ」 「なんでもねえ。ほら、早く書けよ。書いたら封筒に入れて糊しろよ」  それが、笑う大地を見た最後の日だった。
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