4人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、直樹。遺書、書いてみないか?」
「は?」
ぼくたちは十二歳で、あと一ヶ月で、中学に入学する。もう、死の概念は知っている。けど、リアルじゃない。親しいものの死はまだ経験していない。よく知ってる人が死んだときの、フィクションならありがちの、堪え切れず零れるような涙は知らなかった。遺書などという言葉は、教科書よりも遠い。
「遺書だよ。死ぬ前に、財産の分け前とか、あれこれ書いとくやつ」
「知ってるけど、ぼくたちに分けてあげられるほどの財産なんてないし。死ぬのはまだ先だし」
「拓也は明日、事故に合わないっていう保証できんの?」
「事故なんて、あるわけないじゃん。大地。考えすぎ」
「保証なんて誰もできない。明日、死ぬかもしれないんだよ」
ざわりと寒気が走る。エアコンが効いた暖かい大地の部屋から、急に凍てつく外へ投げ出された気がした。
大地の言葉でなく、大地の目が怖かった。マジをたくさん含んでるみたいで、ぼくは怖くて、慌てた。
「ちょ、待って。なに言ってんだよ。大地、なんか変」
「おれが普通じゃないのは、おまえがよく知ってるだろ?」
大地がにやりと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!