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なかなか地面につかない…着かないものだから、少しだけ冷静に考えることができるようになっていた。
そうか、俺は死ぬんだな。このコンクリートにぶち当たったら間違いなく即死だ…。何がどうしてこんなことになったんだろう。こんな間抜けな死に方ないよな。【飲酒男性、屋上から転落】新聞はこんな見出しになるだろうか。いや、あまりに馬鹿馬鹿しすぎてスポーツ新聞が面白おかしく書き連ねるかもしれない。その後はワイドショーだ。【成人式で浮かれた男性は、まだ未成年だった】なんて、堅苦しい評論家が倫理を語るかもしれない。どう考えても馬鹿らしかった。
僕には未来があった。僕なりの人生設計があった。江戸橋大の法学部を受験したのもその計画のうちの1つだったし、その後は貿易会社に勤めてなに不自由なく暮らす予定だった。素敵な嫁さんをもらったあとは…そうだ、子供は三人がいい。そしてみんなを私立の中高一貫校に入学させるんだ。全てが満ち足りた笑顔の溢れる家庭、それが僕の夢だった。
しかしそれが全て崩れさったのだ。
死にたくない。
夏希も…おんなじ気持ちだったのかな。こんな無念な死に方…嫌だったろうな。
僕の両目からは大粒の涙が流れた。落下する風圧によって、涙は全て目尻に溜まり、そして上へ流れた。
シャンシャンシャンシャン…
シャンシャンシャンシャン…
ベルの音が聴こえる。時期を間違えたサンタクロースがやってきたような…そんな音だった。
シャンシャンシャンシャン…
音は次第に大きくなっていった。
音と共にやってきたのは…暗闇のなか白く光る塊だった。それが小さな妖精なのか、大きな隕石なのか、大きさまではよく分からなかった。
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