第5章【箱 その2】

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父はとても厳格な人であった。確かにやりたいことは何でもやらせてくれたが、それを辞めるために父を説得することはとても困難であった。 『自分がやると決めたことは最後までやり通しなさい。』 これがいつも父の口癖であった。こんな父を説得するには『辞める理由と最終目標の明言』が不可欠であったし、父からくる質問にも適切に返答する必要があった。今から考えると、この頃からプレゼン能力を培っていたのかもしれない。 しかし彼はかなりネジの飛んだような人でもあった。突拍子もなく大きなサッカーボールを買ってきたのもその一つであるし、自分の好きなことを始めるとまったく回りが見えなくなる人だった。 特に、彼は写真を撮るのに夢中であったらしく、平気で2日3日は部屋を空けた。そんな状態で会社は大丈夫であったのか、そんなことを全く心配しなかったのは金銭面での生活苦を経験しなかったからだった。
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