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「いぎっ!」
そんなことを考えていたら左足の人差し指を痛めてしまった。でもその痛みのおかげで、僕は閉じかけていた目を覚ますことが出来た。
「ひっく。店長、お勘定」
「ひでぇ顔色だ。お客さん、本当に大丈夫かい?」
「あぁ、骨折の保険ならたくさん入っているんだ。心配しないでくれたまえ。うはは!」
「何で酒飲んで骨折しなきゃならねぇんだい。お客さん、相当まいってるね」
おかしな事を言うおっさんだ。……ふむ、よく見ると顔までおかしいじゃないか。まるで、茹でダコがハチマキを巻いているみたいだ。
「あははは、茹でダコ、茹でダコ。うふふひ」
「やべぇ、幻覚まで見ていやがる。おーい、かぁちゃん! 救急車呼べ!」
「救急車……?」
僕は自分がどんどん青ざめていくのが分かった。
「や、やめろ。あのヤブの所には、もう行かない!」
僕は財布から出した一万円札をカウンターに叩きつけて、逃げるように居酒屋を去った。
間抜けなダンスを踊っているみたいに、足がもつれる。
まるでタコだ。
でも僕は茹でダコじゃない。その分、さっきの店長よりはまだマシだ。
わけの分からない自身に満ち溢れながら、僕は商店街の闇をフラフラとさまよい歩いた。
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