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「うぐぐ……」
僕は何とか立ち上がる事だけは出来た。昔から運動は得意なんだ。おかしな体質さえなければ、体は頑丈な方だった。
「何て事をするのよっ!」
チンピラに絡まれていた女の子が、僕に駆け寄ってくる。
……お伽話の世界から抜け出してきたような、幻想的な女の子だった。
「おうおう、見せ付けてくれるやんけ!」
女の子はチンピラを無視する。
そして着ている制服の裾で、僕の鼻血を拭いてくれた。制服には見覚えがある。僕が通っていた高校の制服だ。
鼻に空気が通うようになると、女の子の髪からほんわりといい匂いがした。
そこで初めて、僕は重大な事実に気付く。女の子とこんなに接近するなんて、何年ぶりだろう。僕の胸は緊張で高鳴った。
「がむっ!」
「ガム?」
「き、気にしないで。とにかく僕から……いや、ここから離れて」
僕は精一杯の勇気を振り絞って、女の子を逃がそうとした。
女の子は、それに促されるようにすくっと立ち上がると、一目散に逃げて行った。
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