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僕の骨折は、左手と右足の治療を残すのみにまで快復した。
律儀な彼女は、ほとんど毎日、僕のお見舞いに来てくれた。
いつも制服を着ているのは、下校の途中だからだそうだ。つまり学校が終わるとすぐに、僕の所へ来てくれるのだ。
「でね、そこで医者がこう言うの。『そんな刺激の強いものはことにいかん』って」
「ははは。いいセリフだね」
今日も僕たちは、いつも通り小説の話題で盛り上がった。
初めのうちは、彼女が来るたびに緊張して骨折し、入院が長引くんじゃないかとヒヤヒヤした。
でも、よそよそしかった言葉遣いも、いつのまにか親しげになり、軽口すら言い合えるようになった。
『気が合う』というのは、まさにこういう事を言うのだな。もし僕が国語辞典の監修者だったら、『気が合う』の意味の欄に『僕と彼女の事』ときっと書くだろう。
「あっ」
「どうかした?」
「ううん。ちょっと目眩がしただけ」
少し彼女の顔色が悪いように見えた。そりゃそうかもしれない。学校だって行かなきゃならないし、友達との付き合いもあるだろう。
僕は彼女を束縛しているような気がして、申し訳なさと嬉しさがごちゃ混ぜになった。
「疲れているなら、こんなに頻繁に来なくていいよ」
「いいの、私が来たいだけだから」
「でも学校とか、友達付き合いとか、色々あるだろう?」
彼女は少し黙ってから、言葉を発した。
「学校なんかつまらない。友達なんて一人も、いない」
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