骨折6

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彼女の体が、フワリと僕に覆いかぶさった。僕は快復した右腕で、彼女の体を抱き留めた。 彼女の鼓動の高鳴りが聞こえる。そして、それは僕も同じだった。 「はぶっ!」 あぁ、僕の体は、彼女の気持ちを素直に受け入れられない。 「どこか痛むの?」 「いや、違っぷす! と、とにかく離れてくれ!」 僕は必死で彼女を引き剥がした。 「私の事、嫌い?」 「ち、違う! そうじゃない!」 「……」 彼女は黙って目をつむり、その天使のような顔を、僕の顔のすぐそばまで近付けた。 「あっ」 もう少しで唇同士が触れ合う、その寸前。 『グシャッ』 「ぎゃあっ!」 治りかけた左手が、嫌な音を立てて砕けた。 「たっ、頼むから僕から離れてくれ! はぐっ!」 僕はふがいない自分を心底呪った。 「……」 彼女は何も言わずに僕のそばを離れた。そして無言のまま、彼女は病室を走り去った。 速いテンポの足音が、どんどんと遠ざかっていく。 「何だ。振られたのかね」 入れ代わりで病室にやってきたのは、あのヤブ医者だった。
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