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今日は退院の日。僕はあのヤブ医者の元へ、最後の挨拶に訪れた。
こんな奴でも、一応面倒を見てくれた恩人だ。こういう事はキッチリしておかなければならない。
「振られたショックからは立ち直ったかね」
やっぱり来るんじゃなかった。僕は踵を返して帰ろうとした。
「お、おい。待ちなさ……うおっ」
僕を止めようとして椅子を立ったヤブ医者は、足をもつれさせてすっ転んだ。
いい気味だ。
「大丈夫ですか」
僕は心にもないことをしれっと言った。
「ああ。少し風邪気味でね、頭がボーッとするんだ。……ゴホゴホ」
ヤブ医者はわざとらしく咳をした。
病気の医者なんて最低だし、それを患者の前で見せ付けるような奴は、もっと最低だと思った。
「何を怒っている」
僕は怒りを隠そうともしなかった。
「どうも私は、嫌われているようだな」
今頃気付いたのか。悪怯れもしないヤブ医者の顔を見ていると、胸がムカムカした。
「では、嫌われついでに言っておこうか。君があの子に振られたのは、私のせいだ」
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