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「何ですって?」
僕の声は思わず上ずった。
「あの子が去った次の日。実はあの子は、もう一度だけ、この病院を訪れた」
初耳だった。僕は食い入るように続きを聞いた。
「また君に会いたいなんて言うから、教えてやったんだ。君の『特異体質』の事をね。そしたらあの子は、何も言わずに帰っていったよ」
僕は全身の毛穴がザワザワと開いた。
「深入りしたって、君は幸せになんかなれっこないんだ。傷は浅いうちに塞いでおいた方がいい。医者として当然の措置だよ、これは」
僕は右手で強く握りこぶしを作った。そして左手でヤブ医者の胸ぐらを掴んだ。
「殴るのかね。私を」
ヤブ医者の顔は妙に青ざめていた。情けない奴だ。
でも、僕は殴らなかった。殴ったからといって、何かが解決するわけじゃないからだ。
それに、彼女の事はもう諦めたんだ。むしろ最後のトドメを刺してくれた事を、感謝すべきだろう。
僕は掴んだ胸ぐらをゆっくりと離してから、握ったこぶしを緩めた。
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