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「吹っ切れたというより、気付いたんですよ」
ヤブ医者は続きを催促するように、眉毛をくいっと上げた。
「僕はまだ、彼女に何も言っちゃいないし、言われてもいない。このまま終わるなんて、あんまりでしょう」
「だが、彼女は去ったんだぞ」
「何も言わずに、でしょう。『あんたみたいな骨折男は嫌いよ』なんて、一言も言っていない」
僕の心には、一片の曇も差し掛かってはいない。ただただ晴れ渡る空の向こうに、彼女の姿だけがはっきりと見える。
そんな僕の覚悟に影響されてか、ヤブ医者の方まで神妙な面持ちになる。
そして数秒、岩のように沈黙した後、ヤブ医者は信じられない事を語り始めた。
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