骨折10

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彼女の家は、何の変哲もない普通の住宅街の一画にあった。 しかし勢い込んで来てはみたものの、僕は玄関のベルすら押せずにいる。 いや、何度も押そうとはしたのだ。でもそのたびに、体のどこかがピシピシと音を立てて、それを阻んだ。 彼女は、中にいるんだろうか。 そんな事を考えながら、僕はしばらくそこに立ち尽くした。 背後に人の気配を感じたのは、それから数分が経った頃だった。 「何で」 気配が声を発した。僕はそちらを振り向く。気配の正体は、やはり彼女だった。学校帰りなのか、今日も制服を着ている。 「何で来たの」 彼女はたぶん、本気で怒っている。こわばった表情と、押し殺した声色から、それがひしひしと伝わってきた。 「それは……」 言葉がうまく出てこない。何から言えばいいんだ。 『付き合ってほしいから』? だめだ、意味が分からない。 『結婚したいから』? ……もっとだめだ。何を考えているんだ、僕の脳は! 「帰って。私たち、一緒に居たって、いい事なんかこれっぽっちもないのよ」 自分の脳と格闘しているうちに、彼女の方が話し始めた。 「……それは、僕が『特異体質』だから? それとも……君が『特異体質』だから?」 彼女は口元を少し歪めた。 「……あの先生から聞いたのね、私の『特異体質』の事。絶対にばらさないって、約束していたのに」 しまった。うかつだったか。彼女の怒りは一層増したようだった。
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