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僕は二階にある彼女の部屋に連れてこられた。
部屋だけでなく、家全体がしんと静まり返っている。
「ご両親は」
「パパは仕事。ママはたぶん買い物」
彼女は机の引き出しをゴソゴソと探りながら、短く答えた。
「……あったわ」
彼女が取り出したのは、何と拳銃だった。
「そんなものを、どこで」
「あなたと出会った日。人を呼んで駆け付けたら、あなたのそばに落ちていたの」
あのチンピラが放り投げたやつか。
「たぶん、あのチンピラが落としていったんでしょう? なら、恐らく本物だわ」
彼女は拳銃を握ったまま、ゆっくりと僕の背後に回る。
そして、僕の背中にぎゅっと抱き付いた。
「弾が一発しか入っていないかもしれないから、こうして体をくっつけて、一緒に心臓を撃つの」
「心臓を」
僕は彼女の言葉を復唱した。
僕は膝を床に着けて、ひざまずいた。彼女より背が高いので、立ったままでは心臓の位置がズレてしまうからだ。
そして彼女は、僕の背中に覆いかぶさった。
背中でおっぱいの感触を感じる。
僕はとても冷静だった。
「僕が撃つよ」
女の子の力では狙いを外すかもしれない。彼女は僕の右手に、拳銃を渡した。
撃鉄を起こし、拳銃を逆さに握って、銃口を左胸に当てる。
親指を引き金に添え、僕は目をつむった。
彼女もたぶん、同じ事をしているはずだ。
「また会おうね。こことはきっと違う、幸せな世界で」
彼女はそう言った。
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