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僕は大きく深呼吸をしてから、静かに話し始めた。
「さっき君は『幸せな世界で会おう』って言ったけど、そこはどんな世界?」
「……分からないけど、たぶん絵本に描かれた天国みたいな世界だと思う」
「そんなのはだめだっ!」
「な、何でよっ!」
彼女は少しムッとしたようだった。
「どうせその世界には、山とか、川とか、海とか、雲の上とか、そんなものしかないんだ!」
「素敵じゃない。雲の上とか」
「く、雲の上は確かに素敵だ!」
ちくしょう、『海』で止めておけばよかった。
「で、でも、他は全然素敵じゃない! ありふれたものばかりだ! 僕はこの世界で、君と行きたい所がたくさんある! 本屋に、映画館に、遊園地に、レストランに、キャンプに、海水浴に」
「最後の二つは天国でも出来そうよ」
「じゃ、じゃあその二つは取り消す!」
いかん。冷静になれ。
僕はもう一度大きく深呼吸をした。
「……つまり、何が言いたいのかというと、僕は死にたくないって事。もちろん、君も死なせやしない」
「……でも私は、幸せになると、体が弱くなって死んじゃうから……」
彼女は泣きそうな顔で呟いた。
そう、そこだ。そこを解決しないと、前には進めない。
僕は覚悟を決めて語り始めた。
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