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「幸せって何だと思う?」
「え、えーっと……」
彼女は言葉に詰まる。まぁ、こんな質問では当たり前だろう。
「じゃあ、君の両親は幸せ?」
「た、たぶん」
「一分一秒が全て?」
「そ、そこまでじゃないけど……。でも連休で外出する時とか、何かの記念日とかは、いつも幸せそうだわ」
彼女は頭の中を整理しながら、丁寧に話してくれた。
彼女も冷静さを取り戻し始めたようだ。
「そう。一分一秒が常に幸せな奴なんて、いないんだ。幸せっていうのは、何の刺激もない日常生活の中で、ごくたまにしみじみと感じるものなんだ」
僕はたたみかけるように彼女を諭し続けた。その様子はさながら、教祖様と信者の姿を彷彿とさせた。
「君は『脳が幸せを感じると免疫力が下がる』んだろう? じゃあ言い方を変えれば『脳が幸せを感じた時だけ免疫力が下がる』んじゃないのか?」
「そう……かも」
「月に数回あるかないかの『幸せ』にビクビクして、人生を棒に振るなんてバカげてると思わないかい?」
「……でも、それは夫婦に限った事であって」
「じゃあ、結婚しよう」
彼女はキョトンと目を丸くした。
僕も、勢い半分で言ってしまった自分に驚いた。
もちろん、もう半分は本気だが。
「結婚すれば、些細な幸せなんかすぐに感じなくなるさ」
「でも私は、あなたがいるだけで……幸せ」
僕は、彼女を抱き締めたくなる衝動を、必死で押さえながら続けた。
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