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「じゃあ僕を『当たり前の存在』だと思えばいい」
僕は出来る限りの優しい表情を作った。
「当たり前の?」
「そう、空気みたいな存在だと思えばいい。普段は別に気にしないけど、実は大切な存在。難しいかもしれないけど、きっと出来る。君は頭のいい子だから」
彼女はしばらく考えるような仕草をしていたが、やがて吹っ切れた表情で結論を出した。
「うん。頑張ってみる」
「よし、これで全て解決だな」
僕は謎を解いた探偵のような気分になった。
「ちょっと待って。あなたの『特異体質』の事が、何も解決していないじゃない。キスしようとするたびに骨折されたら、かなわないわ」
そう言われてみればそうだった。
でも。
「……いいじゃないか。背骨が折れようが、頭蓋骨が折れようが、君とキス出来るなら本望だよ。……保険金も入るしね」
「なにそれ、ずるい」
彼女は嬉しそうに笑う。
僕もつられて笑った。
と、その時、一階から声が聞こえた。
「ただいまー」
ガサガサと買い物袋を置く音がする。
「マ、ママだわ」
「ど、どうすればいいがべっ!」
僕は自分の両手がプラプラになっているのを、ようやく思い出した。
勢い良く体を動かした反動と、彼女のママが出現した緊張で、激痛が走る。
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