骨折11

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「じゃあ僕を『当たり前の存在』だと思えばいい」 僕は出来る限りの優しい表情を作った。 「当たり前の?」 「そう、空気みたいな存在だと思えばいい。普段は別に気にしないけど、実は大切な存在。難しいかもしれないけど、きっと出来る。君は頭のいい子だから」 彼女はしばらく考えるような仕草をしていたが、やがて吹っ切れた表情で結論を出した。 「うん。頑張ってみる」 「よし、これで全て解決だな」 僕は謎を解いた探偵のような気分になった。 「ちょっと待って。あなたの『特異体質』の事が、何も解決していないじゃない。キスしようとするたびに骨折されたら、かなわないわ」 そう言われてみればそうだった。 でも。 「……いいじゃないか。背骨が折れようが、頭蓋骨が折れようが、君とキス出来るなら本望だよ。……保険金も入るしね」 「なにそれ、ずるい」 彼女は嬉しそうに笑う。 僕もつられて笑った。 と、その時、一階から声が聞こえた。 「ただいまー」 ガサガサと買い物袋を置く音がする。 「マ、ママだわ」 「ど、どうすればいいがべっ!」 僕は自分の両手がプラプラになっているのを、ようやく思い出した。 勢い良く体を動かした反動と、彼女のママが出現した緊張で、激痛が走る。
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