骨折11

6/6
前へ
/62ページ
次へ
将来僕の義母になる人に、こんな両手がプラプラした姿を見られたら一大事だ。 「と、とにかく、部屋の鍵を」 「うん、わ、分かったわ」 彼女は素早く部屋の鍵を締めた。とりあえずは一安心だ。 「部屋にいるのー?」 とん、とん、とん、という、階段を登る足音が聞こえ、僕の緊張はいやがおうにも高まった。 「うべっ!」 「ちょ、何!? 今の声!?」 足音が早くなる。 「口を塞いで!」 「む、無茶を言うなよ! 両手がプラプラなんだぞんがっ!」 「『ぞんが』!? あなた、大丈夫なの!?」 さらに足音が早くなる。 僕の緊張もさらに高まり、また悲鳴を上げそうになった時。 彼女が両手を使って、僕の顔を優しく固定した。 そして目をつむり、その柔らかい唇で、僕の口を塞ぐ。 全身がぬるま湯に浸かったような、トロンとした感覚。 僕の緊張は、そのぬるま湯の中に、残らず溶け出してしまった。 ……背骨も、頭蓋骨も、無事みたいだな。 どうでもいい事を心配しながら、僕は床に落ちた拳銃に目をやる。 窓から注ぐ夕陽に映えたそれは、まるで夢の脱け殻みたいだった。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

940人が本棚に入れています
本棚に追加