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将来僕の義母になる人に、こんな両手がプラプラした姿を見られたら一大事だ。
「と、とにかく、部屋の鍵を」
「うん、わ、分かったわ」
彼女は素早く部屋の鍵を締めた。とりあえずは一安心だ。
「部屋にいるのー?」
とん、とん、とん、という、階段を登る足音が聞こえ、僕の緊張はいやがおうにも高まった。
「うべっ!」
「ちょ、何!? 今の声!?」
足音が早くなる。
「口を塞いで!」
「む、無茶を言うなよ! 両手がプラプラなんだぞんがっ!」
「『ぞんが』!? あなた、大丈夫なの!?」
さらに足音が早くなる。
僕の緊張もさらに高まり、また悲鳴を上げそうになった時。
彼女が両手を使って、僕の顔を優しく固定した。
そして目をつむり、その柔らかい唇で、僕の口を塞ぐ。
全身がぬるま湯に浸かったような、トロンとした感覚。
僕の緊張は、そのぬるま湯の中に、残らず溶け出してしまった。
……背骨も、頭蓋骨も、無事みたいだな。
どうでもいい事を心配しながら、僕は床に落ちた拳銃に目をやる。
窓から注ぐ夕陽に映えたそれは、まるで夢の脱け殻みたいだった。
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