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何分歩いたかわからないがまっすぐに続く廊下をしばらく進み、とある部屋に通された。
革張りのソファーが向かい合って2つとアンティークなローテブルが1つだけのシンプルな部屋だった。
「座れ」
グラド伯爵の言うとおりに少女はソファーに腰掛けた。
反対側にグラド伯爵が座り、グラド伯爵の後ろにメイド服の女性が立つ。
「なんの用でこの城に立ち入った」
「……え?えーっと……気が付いたら、石のいっぱいある広場にいて……どこに行っていいのかわからないのでとりあえずお城に……。でも、扉が開かなくて、女の人が開けてくれて……」
グラド伯爵が後ろを向こうとしたが「私ではありません」と、メイド服の女性に言われ視線を少女に戻した。
「広場というのは墓場の事か」
「おそらくそうでしょうね」
「は、墓場……ですか」
少女は思わずぎょっとした。
名前の刻まれた石は墓だったのだ。
「ということはゾンビの仲間か」
「でも、足元にあったのは知らない名前……」
「ほう、貴様の名前はなんというのだ?」
「え?名前は……」
そこで少女は言葉に詰まった。
(私の……名前……)
「ない……。思い出せない……というか……あるの?」
「おまえがゾンビでなければ名前はある」
「じゃぁ私ゾンビなの?」
「容姿は……違いますね」
「腐乱臭もないしな」
グラド伯爵はため息をついた。
「はぁ。しょうがない、ないのなら好きに名乗るがよい」
「え。はい。……うーん……」
少女は自分の意識の奥にふっと浮かんだ名前を自分の名前にした。
「ミナ」
「私の名前は……ミナ」
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