第1章 夜

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城の一室で小さなコウモリが棺桶の周りを飛び回っている。 「ハクシャクサマ!起きてくださーい!ハクシャクサマー!ハクシャクサマ!ハクシャクサマ!ハクシ……」 「うるさあああああい!!」 突然、棺桶の蓋が開きコウモリめがけて飛んでいった。 しかし、コウモリはひらりとかわし蓋は部屋の窓に飛んでいきガシャーンと音をたて部屋から飛び出していった。 蓋のない棺桶には、長い髪を後ろにむすんだ黒い正装に身を包んだ男がいた。 「ヨハン、貴様は何度言えばわかるのだ!私の眠りを妨げるなああああああ!」 男は枕を投げたが、コウモリのヨハンにまたかわされて枕は部屋を飛び出していった。 ヨハンは男の周りを飛び回りながら抗議した。 「でもでも、ハクシャクサマが逐一報告しろっていったからぁー」 「お、では何か報告があると言うのか!?」 「はい!今日も異常無しでーす」 「このやろおおおおお!!」 ハクシャクサマと呼ばれた男はヨハンを捕まえようと棺桶を飛び出したがひらりとかわされ窓の外に逃げていった。 「まて!もどれええええ!!!」 男は窓際でコウモリにさけびちらしていると背後から声がした。 「グラド伯爵、『このやろう』というお言葉はいかがかと思いますわ」 グラド伯爵が振り返ると部屋の入口に一人のメイドが立っていた。 「ヘレン!ヨハンを入れたのは貴様だな!」 「ヨハンは与えられた仕事を忠実にこなしているだけですわ」 「ふん!どこが忠実だ!」 グラド伯爵は棺桶に入り寝直そうとしたが蓋がないことに気がつき舌打ちをした。 「では、蓋が届くまでお仕事を片付けられてはいかがですか?」 ヘレンは机の上にある紙の束を指した。 「ぐ……ど、どうせいくらやっても減りはしないのだ、今やる必要はない」 グラド伯爵は蓋の代わりになるものを探して部屋を歩き回っていたがヘレンの一言で動きが止まった。 「わたくしはそれでもいいのしですが、オーディン様はどう思われるか……」 グラド伯爵はその言葉にピクッっと反応してヘレンを睨みながら机にむかった。 椅子に腰かけ無言で紙束の一番上から一枚づつ取り出して判子を押し、また一枚取り出し判子を押し……を繰り返した。
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