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城阪高等学校(きさかこうとうがっこう)9月3日。
まだ暑い残暑の中で受ける授業はかったるい以外の何物でも無い。しかし、その中で時折吹く弱々しい風に、最近やっと伸びてきた髪をなびかせると、どこか気分がよくなる。
そんな状況で、強い日差しに照らされたグランドを見つめているのは彼、藤咲龍也だった。
彼は元々は野球部で坊主頭だったが、高校3年の夏の大会が終わってからすぐに髪を伸ばし始めた。
そして、
(前の長さになるには、最低2年ぐらいかな……?)
と、若干吊り上がった二重の目をさらに見開き、たった一ヶ月ちょっとで眉毛に掛かるワックスで固めた前髪に触れた。
育毛剤等も使ってはみているが、効果があるかは不明。確かに伸びてはいるが、4年前の冬に祖父によって強制的に坊主頭にされた当時に比べればまだまだショートだ。
「授業はまだあと15分あるけど、やること終わったから、後は自習でいいか」
黒板の前に立つまだ若い先生が告げて、生徒達から集めた現代文のプリントをファイルに纏めて鎖した。
(15分前は、早すぎないか?)
苦笑いをしたのはほんの数秒で、一息つくと龍也はまたグランドを見直した。
窓際の席の特権だろう。確かに日差しはきついが、まだ弱々しい風はこの場所が最も心地好く感じれる。
ちなみに、他のクラスは席替えしていないが、このクラスだけは席替えしてある。理由は知らない。
ともかくその窓から見下ろすグランドに人気は無く、静かな空間に蝉の声だけが響いている。
そんな穏やかな残暑の中、彼は眉をひそめた。
べつに、何かがあったわけでは無い。ただ、今朝の夢を思い出したのだ。
(赤い……仮面)
見覚えなんかは当然無いし、身長が2メートル以上の人間となど出会った事も無い。
龍也はまた唇を噛みそうになったが、ここは学校である。過去の彼を知らないクラスメート達は、龍也を優しく人当たりの良い人間だと思い込んでいる。
(本当は、そんなんじゃないのに)
クラスメート達を一瞥する龍也だが、彼は、まんざらでもなさそうに微笑んだ。
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