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「トランプ? 持ってるならやろうよ」
前の席から入り込んできた声に龍也は戸惑う。
そこにいるのは朝瀬友奈という女子なのだが、普段はこんな頭の悪い誘いに乗る奴では無かったはずだ、と思っていたからだ。
「だよなぁー! こいつお硬いから空気読めねぇの」
信二がふて腐れるように言った。もちろん、
「これが普通だ! 今、授業中!」
と龍也は怒鳴った。
しかし、
「そんなのは建前だ!」
威厳のある低音ボイスプラス腕組みをする信二。
「建前だけにしようとしてるのはどこのどい」
「うるせぇ!!」
……念のため確認しておくが、龍也は注意をしていた立場にある。
だが、信二もろとも龍也さえも殴り黙らせたのは体格の良い1人の男。
気付くと、龍也と信二は床に伏せていた。
「……実(みのる)」
龍也が苦しそうにその男を見上げる。
その体格の良い男は井口実。男子の学級委員で、元野球部だったということもあり、その頭はすっきりと丸坊主だった。
「俺は……、ただ、注意を……」
龍也は踏まれた背中を振りほどこうともせずに呟く。
「関係ないな。とりあえず、うるさい」
井口は地に伏せる龍也と死んだふりを続ける信二を見下しながら言った。
そして、
「おい加藤」
実が話しかける。
返事は無い。
しかし嘆息した井口が足をどかすと、
「返事が無い……、ただの屍のようだ」
クラス中に聞こえるように信二は呟いた。
その発言に堪え切れず数名が笑い出す。
だがそれも、ゴツン!! と、先程よりさらに豪快に響く衝突音により静まり返る。
その衝突音の発信源は、もちろん頭を抱える信二だ。
「……自習をしろ」
井口は信二にそう言い捨て、自分の机に戻っていった。
少し外れてはいるが、ここまではいつもどおりだった。
ここまでは。
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