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「災難だったね。大丈夫?」
前の席に座っている友奈が後ろを向いて顔を覗き込んでくる。
「仕方ない、のか? とりあえずは、大丈夫だよ」
龍也は実にやられた痛みを押さえ、縮こまりながら苦笑した。
「あはは。諦めが肝心って言うからねー」
今の龍也とは対象的な明るい表情で笑う友奈。
「諦めとはまた違う気が……」
「うわぁ!?」
遠い目をした龍也を、不意をつく悲鳴が現実へ連れ戻した。
今のは、野中慎吾という小柄な男子の叫び声だが……。
全員が一斉に慎吾の席がある教室の最後列の1番廊下側、つまり、龍也と反対側のほうに振り向く。
そこには椅子から落ちて床に尻餅をつく慎吾と
(犬?)
窓際の龍也から見て、廊下側に居るその4足歩行の生物はまさしくそれだった。
だが、それにしてはかなり大きい黒犬で、明らかな敵意をうめき声に乗せながら慎吾に歩み寄っている。
そしてその犬は、どこか、何かが不自然だった。
「ど、獰猛犬か!?」
実がその犬を見て叫ぶ。
しっくりきた。だが、まだ何か違う、と、龍也は思う。しかし、それが何かを考える暇はもう無かった。
皆が慌てて教室の窓際に逃げようと走り出したのと同時に、獰猛犬は慎吾に飛び掛かる。
しかし、腰を抜かして慎吾は動けない。
「しんっ」
龍也が慎吾の名前をとっさに呼ぼうとした瞬間、獰猛犬は横に吹き飛んだ。
「つ……、大丈夫か? 慎吾」
犬を蹴り飛ばした張本人が慎吾と犬の間に立ち塞がる。
「ありがとう……。大越君」
慎吾を助けたのは大越健一という、井口と肩を並べる筋肉質の男だ。
「しかし、このはいったい犬どうやって……」
井口が2人に歩み寄りながら呟く。
だが次の瞬間、普段あまり喋らない日山静香という女子が声を張り上げた。
「大越君! 危ない!!」
その声に反応し、とっさに教室の入口を見ると、さっきと同じ獰猛犬が何体も入ってきていた。
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