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「ごめんなさ~い!私が、オーダー取ったのに、忘れてました!」
松田さんはそう言うと、申し訳なさそうに謝ってきた。
『気にしないで…。私が持って行ってあげるから、松田さんは私の担当のテーブルに、デザートを持って行っといてくれる?』
私が、愛想良くそう言うと、松田さんは安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。本当、いつも中野さんに迷惑かけてしまって、すみません。」
そう言って松田さんは、私の担当のテーブルに、デザートを持って行ってくれた。
“中野さん”とは、私の事だ。
それにしても、松田さんは本当に美人だ。
おまけに性格も良い。
それに、良い匂いがする…。
松田さんは、この町で有名な松田建設の社長令嬢だ。
そんなお嬢様が、なぜサガミなんかで働いているのかは謎だ。
私は、5番テーブルのケバいおばさんにワインを持って行くと、そのまま厨房に引っ込んだ。
この時期は、毎年結婚式の宴会や新入社員の歓迎会で、大忙しだ。
だいたい、こんな田舎に世界で有名な高級レストラン“SAGAMI”ができる事自体、間違っている。
私は、腕を組みながら大きな溜め息を吐いた。
馴れないヒールも、今では履きこなせるようになったし、常にボサボサだった髪は、ちゃんと整えている。
昔の自分と今の自分を比べたら、本当に最悪だ。
私が言う最悪とは、まさに今の自分の事なのだ。
こんなの、本当の私じゃない。
着たい服も着ないで、大好きな黒のアイシャドウもつけないで…。
今の私を、あの子達が見たらどう思うのかな?
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