五年後

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「ごめんなさ~い!私が、オーダー取ったのに、忘れてました!」 松田さんはそう言うと、申し訳なさそうに謝ってきた。 『気にしないで…。私が持って行ってあげるから、松田さんは私の担当のテーブルに、デザートを持って行っといてくれる?』 私が、愛想良くそう言うと、松田さんは安心したように微笑んだ。 「ありがとうございます。本当、いつも中野さんに迷惑かけてしまって、すみません。」 そう言って松田さんは、私の担当のテーブルに、デザートを持って行ってくれた。 “中野さん”とは、私の事だ。 それにしても、松田さんは本当に美人だ。 おまけに性格も良い。 それに、良い匂いがする…。 松田さんは、この町で有名な松田建設の社長令嬢だ。 そんなお嬢様が、なぜサガミなんかで働いているのかは謎だ。 私は、5番テーブルのケバいおばさんにワインを持って行くと、そのまま厨房に引っ込んだ。 この時期は、毎年結婚式の宴会や新入社員の歓迎会で、大忙しだ。 だいたい、こんな田舎に世界で有名な高級レストラン“SAGAMI”ができる事自体、間違っている。 私は、腕を組みながら大きな溜め息を吐いた。 馴れないヒールも、今では履きこなせるようになったし、常にボサボサだった髪は、ちゃんと整えている。 昔の自分と今の自分を比べたら、本当に最悪だ。 私が言う最悪とは、まさに今の自分の事なのだ。 こんなの、本当の私じゃない。 着たい服も着ないで、大好きな黒のアイシャドウもつけないで…。 今の私を、あの子達が見たらどう思うのかな?
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