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直哉は起き上がり、ブラインドを開け部屋を明るくした。そしてレポートの横にある、まだローンの残っているデスクトップ型のパソコンに電源を入れた。
聞き慣れた起動音と共に明るくなった画面に映ったファイルを操作すると、仕上げたばかりのレポートが映る。
きちんと印刷された提出用の原稿が数枚、少し古くなった写真立てと小さなカレンダー以外は他に何も乗っていない質素なデスクの上に散らばっている。
めぼしいものは他に無いようだ。
彼の貧乏加減がよくわかる部屋だった。無駄なものがひとつも無い。
ふと、直哉は何気なく写真立てに目をやった。
写真には無邪気に笑っている子供、そして幸せそうに寄り添っている若い夫婦が写っていた。
直哉は写真立てから目を反らすと、もう一度画面に目を移した。
仕上がりと完成した原稿を確認した後、パソコンの電源を落として天井を見つめる。
直哉は瞳を閉じ、小さく息を吐きながら再び同じ写真立ての中の写真を見つめる。
写真の中の若い夫婦は、相変わらず微笑んでいた。
暫くその写真を眺めていたが、直哉は目を反らし、今度は窓の外を見つめる。
外は炎天下。
日差しがきつくなりかける季節、六月。
クーラーなんて豪華なものを付ける余裕のない狭い部屋は、暑い夏を過ごすのにそろそろ扇風機が必要になりそうだ。
再び、直哉はこの部屋を見た。
狭くこの部屋を見れば一目瞭然。単純明快な答えが、ただひとつ。
その答えはすぐに直哉の頭に浮かんだ。
『この部屋は蒸し暑い』
そうだ!
これは全て暑さが見せた幻覚に違いない!!
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