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日向の両親は黒のランドセルを持って、日向が通うはずだった小学校に来ていた。
桜は二度目の春を知らせていた。
日向が死んでからちょうど一年経ったのだ。
校庭の隅にポツンと咲くタンポポや、いくつも並んでいる蛇口。それに、大きな校舎。
どれも、日向が見れなかったモノである。
『………日向、元気してる?』
日向の母はランドセルにポトリと涙を零した。
日向が来れないかわりに、と持って来たランドセルは買った時と同様にピカピカと光っていた。
『ごめん、
お母さん、もう泣かないって決めたのにね…』
そんな母の横で、父は黙って校庭を見つめていた。
走り回る我が子が見えているかのように。
その時、ビューッと風が吹いた。
桜の花びらが二人を包む。
それは日向から届いた、最初で最後の手紙の色だった。
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