‘ありがとう’って最近、本気で言ってますか?

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‘ありがとう’って最近、本気で言ってますか?

あるところに一匹の狼がいました 狼は群れからはぐれたわけでもなく、仲間から蔑ませるわけでもないのにいつも一人でいました 仲間の狼は彼をいろんなことに誘いますが、彼は一人でいることを好みました ある日のことです 彼は小さな狸を見つけました おそらく子供の狸でしょう、しかもひどく衰弱しています 「どうした?」 狼は狸に話し掛けますが、狸は返事をしません いつもなら見つけた獲物はすぐに食べてしまうのですが、こんな衰弱した小さな狸を食べても腹は膨れません 彼はその狸を連れて帰り、大きくなってから食べることにしました 群れに戻った狼は定位置である群れの端っこの木の影に狸を降ろしました 「ちょっとそこで待っていろ」 狸の衰弱を見兼ねた狼は近くの森に何か食料をとりに行きます 木登りが得意な狼は軽々といくつかの木の実を持って狸のもとに戻りました 「食え」 木の実を狸の前に差し出しますが、狸は食べようとしません もはや生きる気力すら失っているようです 思い通りにならないことが嫌いな狼は‘死なせない’という想いとともに無理矢理木の実を食べさせました 2、3個の木の実を食べさせられた狸はやっと動く体力が戻ったのか自ら木の実を食べ始めます 木の実を一気に食べ終えた狸は狼の目を見て 「ありがとう」 と言いました 狼はその時、今まで感じたことのない‘温かいなにか’を感じました でも、もともと食べようと思って連れてきた狸です お礼を言われても戸惑いばかりです 「俺はお前を食べようと思って連れて来たんだぞ、そんな奴に礼を言うのか?」 狼は言いました それでも狸は言います 「でも、僕が今生きているのはおじさんのおかげだから」 ありのままの笑顔を狼に向けます 狼はそれ以上何も言わず、その日は眠りにつきました
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