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「――また、来たんですか?」
いつものように、いつもの川原にやってきて、いつものように、夢を見る。
そんな僕に、やっぱり彼女は困ったように首を傾げるもんだから、僕としても困ってしまう。
「また来たのって、あのね。君が僕を、ここに呼ぶんじゃないか」
そう、別に僕が好きでデイドリームなんか見てるわけじゃ、ない。
ていうか、無理だろ。
普通に歩いてるだけで、意識を夢の中にトリップさせるなんて芸当は。
「そ、それは、そうですけど……」
う~、と困ったように唸る少女。
――いつも思うのだけど。
どうしてそう、可愛らしい仕草をするのかな、君は?
「まあ、良いじゃないか。君は、一人が淋しいから僕を呼ぶ。僕は、君と話すのが楽しいから君といる。ほら、どっちも損なんてしてないし」
「う~、だから、それはそうなんですけど……」
ますます困ったように俯いてしまう。
一体、何がそんなに疑問なのか。僕の方こそ疑問だよ?
「そ、それは……どうして貴方は、私なんかと話して楽しいんですか?」
って、またそれか。
「あのね、前にも言ったでしょ。君と話すのが楽しいのなんて、当たり前だよ」
そして僕は、嘘を吐く。
本音は、心の中だけで。
何故って――
「桜の精霊なんて珍しい存在と話せるのが、楽しくないわけないじゃないか」
――君のことが好きだから。
そんな内心も知らず、額面どおりに受け取って拗ねてしまう少女。
「う~、それって、私が精霊じゃなかったらどうでも良いって事ですか?」
ジッ、と潤んだ瞳で上目遣い。
……そんな風にされたら、憎まれ口なんて叩けなくて。
「あ……まあその、何だ」
しどろもどろに、僕は言う。
「話してやらん事もないぞ、うん」
尊大に言い放つ僕に、少女は小さく吹き出した。
――しばらく会話をして、今日はお別れ。
一瞬の空白の後、僕がいるのはさっきまでと同じ場所。
ただ違うのは、季節と、君がいないこと。
僕は毎日、ここに来て。
黄昏時の間だけ、彼女に呼ばれて夢を見る。
だからそう、本当は。
やっぱり僕は、自分から彼女に逢いに行ってるわけなんだよな……
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