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――その日。
何となく、直感してはいたのだけど。
いつか、こんな日がくると。
そう、思ってはいたのだけど。
だけど、彼女の口から直接聞くと……やっぱり結構ショックなわけで。
つまり、それは――
「――今日で、こうして逢うのも最後です」
僕らの別れを、意味する言葉。
彼女は、桜の精霊だから。
去年の春の終わりに生まれて、成長し……今年になって、桜を咲かせて消えてしまう。
そんな、桜の精霊に相応しい、徒花そのものの存在――それが、彼女だったから。
「……そっか。もう、お別れなのか」
その現実を、僕はわりと素直に受け入れた。
それでも、僕は――
「逢いに、来るよ。明日からも」
僕の言葉に、少女は驚いたように目を見開いた。
僕は、はっきりと告げる。
「例え、君に逢えなくても。君は確かに、ここにいるんでしょ?桜として。だったら僕は、やっぱり君に逢いにくるよ」
「……それは、どうして?」
少女の問い掛けに、僕は答えた。
それは、今まで言えなくて……だけどそれは、言ってみれば簡単な言葉。
「何故って――僕は君が、好きだから」
突然の告白に、彼女は困ったように笑って……何かが吹っ切れたように、笑った。
そして、もう一度。
確認するように、告げた。
「――今日で、こうして逢うのも最後です」
――その言葉が、きっかけだったように。
その景色が、薄れていく。
黄昏時が、終わってく。
明晰夢が、覚めていく。
もう僕には、言葉を伝える時間はなくて……だけど想いを、伝えたかったから。
僕は、彼女に小さく、唇を重ねた。
――だから。
僕が最後に見た、桜の精霊の表情は……ちょっと驚いたような、けれど嬉しそうな、満面の笑みだった。
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