フﾛﾚﾝﾃｨｱの名のもとに

～序章～ 西風と南風

　
復活祭のミサが厳かに行われている、サンタ・マリア・デル・フィオーレ（花の聖母マリア）大聖堂の中で。

中央にある立派な祭壇のすぐ近くには、緋色の服を身にまとった枢機卿や聖職者。
その後ろにはこの街の有力者たちと、市民らの姿がある。

そこは、世界で一番美しい場所であるはずだった。少なくとも、この瞬間までは――。

ミサも終わりに近付き、フィレンツェ大司教が、最後の一行を読み上げたそのとき。

「ロレンツォ、覚悟しろ！」

背後から、この街の有力者であるメディチ家の兄弟に、剣を抜いた男たちが襲いかかった。