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クードが案内してくれた宿は、街の中でも最も高級な宿の最高級スイートルームであった。何十人も入れそうな部屋の入口でクードがヌダとアスクに向かって言う。
「この部屋に君とヌダで泊まってもらう、俺は下の階の角部屋にいるから、じゃ、また明日」
クードはそれだけ言うとスタスタと歩いていく。アスクはとりあえず荷物を下ろしソファーに腰掛けた。
「聞かないのか?」
壁に寄り掛かったヌダが腕組みをしながらアスクに尋ねる。
ヌダはアスクが何故自分をすぐに雇ったのか知りたかったからだ。
「お前はこの辺りの地理に詳しそうだし、何より腕が立ちそうだったからな、あとは気分だ」
「そうか……」
ヌダは口数が少ないらしく、それ以上はアスクに話かけなかった。
「さて」
アスクはそう言って立ち上がると、背中の包みを解き、槍を机の上に置いた。荷物の中から道具を取り出し、武具の手入れを始める。
アスクが愛用している槍は柄の部分が白銀に輝くミスリルでできていて、穂先の部分は黒く、ダマスカスと呼ばれる鉱石で作られていた。どちらも希少な鉱物で、特にダマスカスは、採掘される地域が少ない上に量も採れない。加工も非常に難しい為、ダマスカス製の武具を持った者は、恐らく世界でも数える程しかいないだろう。
手際よく、10分程で手入れを終わらせる。
「私はシャワーを浴びるがどうする?」
アスクはヌダに聞いた
「……私は良い、お前に雇われているのだからな、ここで見張っている……。」
その言葉に少しアスクは考え、口を開く
「ならばヌダ、私が出たらお前も入れ、これは雇い主としての命令だ」
アスクはそう言ってヌダの答えを聞かないうちに、さっさとシャワールームへと入ってしまった。
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