その名は

2/6
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
街は騒がしく、そこら中で市が開かれている。 酒場の数も多く、この大通りの左右には、派手な看板を持った客引き達が、冒険者や労働者を引き止めようと躍起になっている。 『安くしとくよ~! 今なら新鮮果物がどれでも、50エインだよ!』 『一杯どうですか! そこ行く兄さんもどうですかい、家はイイ子がいるよ!』  女はとある建物の前にいた。ここまで来る途中に散々露店や酒場の客引きに苦笑させられていた。身につけていたマントとフードを外しながら、一際騒がしい建物の内部へと歩を進める。  その建物は巨大な塔のような造りになっていた。入口は一度に何十人も通れそうな程大きく、重厚そうな木の扉。屈強そうな門番が二人立っていた。門番の一人は大柄な男で、分厚い鎧を身に纏い。もう一人はまるで豹のような姿をしていて、革製の軽量な防具を着けている。 ――獣人だな。 特に珍しい訳ではないが、服に付いた砂や埃を払いながら、女はそんな事を考えていた。 中は広くホールのようになっていた。中央に受付があり、その周りに多数のテーブルや椅子が配置されている。ここで食事を摂り、酒も飲める。ギルドで依頼を受ける者達の情報交換の場に待合室も兼ねていると言ったところだ、沢山の人で溢れている。  女は中央の円形のカウンターへと真っ直ぐ進むと、受付の中から冒険者らしい者達と談笑している15、6歳位の、まだ幼さが残るツインテールの娘に話し掛けた。 「すまない」 「あっ……はい!」 慌てた娘が、カワイらしいツインテールを揺らしながら駆け寄ってくる。 「ここで依頼を受ける約束をしているのだが……」 「はい分かりました♪ 依頼人のお名前は……。」 娘は見た目通りのやや高めの、可愛らしい声で女に尋ねる。 「ああ、依頼人の名はクードだ」 娘は手元にある機械をカタカタと打ちこみ始める。 一昔前までは記録は全て紙に書いていたのだが。  近年、機械や魔術の急速な発達により、依頼の記録やギルドの人物登録などは全て魔術も応用しつつ、機械へと記録するようになった。これにより情報の伝達がより正確に、より素早く行えるようになり、ギルドの組織力や利便性は益々高まっていた。 「依頼内容の種類は何でしょうか?」 打ち込む手を休め、娘が尋ねた。 「内容についてはまだ分からないのだが、戦士ギルドを通してあるはずだ」 「それだけ分かれば十分です♪」
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!