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女が心配そうに答えたが問題は無いらしく、娘は再び機械に打ちこみ始めた。
「最後にあなたのお名前を」
「ああ、私の名は……」
「姉ちゃんよう!!」
男の野太い声が女の言葉を遮る。女はゆっくりと声がした方向を向いた。そこにはヒゲがモジャモジャの、太い腕に盛り上がった肩、腹はボヨンと出ている典型的な荒くれ者といった姿の男がいた、周りには数人、子分のような者達もいる
「姉ちゃんよう! 俺達の酒の相手でもしてくれや!」
受付の娘は心配そうな瞳を女に向けるが、女はそんな娘に苦笑しながら言った。
「心配いらない、慣れている」
ギルドに女性がいるのは珍しい事ではない。
それがどんなギルドであっても女性は数多くいる。それでもこの女が男に絡まれたのは、単に運が悪いのもあるが、女の容姿のせいもある。
女性ながら180cm近い長身であり、サラサラと長く、燃えるような真紅の赤髪。
その燃えるような髪とは対象的な、全てを見通すような蒼く澄んだ瞳。
そのスタイル、歩き方、全てが人を魅きつけていた。
おまけに背には長く大きな包みを背負っていた。
つまりは、かなり目立っていたからである。
「残念だが私は人間だ。貴様のような豚と一緒に飲む酒はない」
女はサラッと言う。
決して声を張った訳でわないのだが、その声は凜としていて非常に良く通った。
一瞬で場の空気が変わる。
ボスらしき男の顔はもう真っ赤だ。
「なんだとぉ?」
子分の一人が立ち上がり、腕を回しながら女を威嚇する。
「ああすまない、豚と言ったのは間違いだったな」
「へっ、この女もう泣きをいれてやが……」
「豚で例えたらオークに失礼だったな、豚以下だな」
淡々とした口調でそう言い放った。
「このアマぁ! 言わせておけば!」
他の座っていた子分達も一斉に立ち上がる。
「まてえい! お前らあ!」
と、男は今にも飛び掛かりそうな子分達を制すると、ゆっくりと立ち上がり、女を見る。
「気にいったぜ!
この俺様にそんな口を利くとはな」
男はそう言ってガッハッハと豪傑笑いをした。
が。
「豚以下なクセにあまり大物振るな、虫酸が走る」
女はため息混じりにそう言い放つ。
男の笑いがピタりと止まり、顔が真っ赤でまるで茹でたタコのようだ。
瞬間。
「やっちまえぇぇ!!」
男の怒声と共に子分達が一斉に立ち上がる。
同時に周りの野次馬達により、机や椅子が片付けられていく。
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