その名は

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――全く運が悪い。  女はそんな事を思いながら、飛び掛かってきた子分の一人を横に避けつつ、がら空きになった脇腹に肘を撃ち、怯んだ隙を逃さず受付のカウンターへ頭から叩きつける。もの凄い力で叩きつけたため、受付が粉々になり。受付の娘が小さく 「キャッ」 と声を出した。    普段の彼女であればあの程度の挑発など、軽く流していたはずだ。  子分の一人が拳を振り上げた、だがその拳が振り下ろされる前に女の神速の蹴りがその子分の顎を捉え、一回転して子分は遥か後方に吹っ飛んだ。  女が動く度に野次馬達は大きな歓声をあげ、女の胸にある小さな赤い宝石が埋め込まれた指輪の首飾りがチャラチャラと揺れた。 『いいぞ~! 姉ちゃん!!』 『もっとやれ~~!』  我慢が出来なかった。吹き付ける風に混じり砂が服や髪についた事に、ウンザリする程しつこい客引き達。そしてトドメに我慢ならなかったのは……。 そう自分に絡んできたあの男の豚顔だ。吐き気がする。 「はぶんっ!」 子分は冗談みたいな声を上げ床に叩き伏せられる。 ――いや、運が良いのか。 ――溜まっている苛立ちをぶつけることができるからな。 残りはヒゲもじゃで豚顔の男と、鬼神のような強さの女だけだ。 「さてと、そろそろ行くかな」  二階で様子を見ていた若い男が突如そう言って立ち上がる。 「あん?行くってどこにだ?」 酔っ払いが不思議そうな顔で尋ねると。 「いや、あそこ」 と男は騒ぎの中心を指差し、二階のてすりに手をかけると、一気に跳躍する。 「え? ええ?!」 酔っ払いが叫んだ時には、若い男は酔っ払いの目の前から消えていた。 「女! よくも俺様の子分達を……」 「よっと」 突然女とゴンザレスの間に若い男が降り立った。若い男はゴンザレスを見向きもせず女に話かける。
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