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時は流れ、霞ヶ関に立ち並ぶビルの街には、スーツを着たサラリーマンやOLが行き交っている。
だが1人だけ、リクルートスーツに身を包んだ女性が、レンガ造りのビルの前に立っていた。
深呼吸をしてビルの中へ入ると、迷わずエレベーターへと向かい、ボタンを押した。
すぐにエレベーターの扉が開き、行き先のボタンと扉を閉めるボタンを押した。
彼女は緊張しているのか、また深呼吸をし、身だしなみが整っているか、自分の周りを見て確認した。
目的地に着き、エレベーターの扉が開いた。
正面には2人の職員が立っていて、女性がエレベーターから降りると職員は乗り込み、扉を閉めた。
女性はエレベーターから降りた後、階段を上り、上へ上へ目指していた。
彼女―藤川夏樹は今日から、このビルの最上階にある部署の一員になるのだ。
ビルの屋上に、後から付け足しのように建てられた部屋がある。
特殊文化財課、通称ヤミブンが働いている場所である。
たとえばホープダイヤのように、持ち主に霊的な危害を加えられたりする特殊な物を回収、または破壊する組織で、本来の名前は“特殊文化財科”。
だが、特殊すぎて闇の中で働くので、“ヤミブン”と呼ばれている。
そんなヤミブンにも、春が来ていた。
壁に飾られているカレンダーの今日の日付のところに、『入社式』とピンク色のペンで書かれていた。
「あれ?」
前髪の1部分がレモン色をした青年が、そのカレンダーに気付いた。
確か昨日は何も書いていなかったと。
ヤミブンのメンバー―楠木誠志郎は、首を傾げながらカレンダーを見ていた。
「どうしたんだい、坊や」
誠志郎の先輩―溝口耕作が、カレンダーを眺めている後輩に声をかけた。
「これ、誰が書いたんですか?」
誠志郎は今日の日付に書かれているところを指した。
「あぁ、それは―」
「課長だ」
耕作が言う前に口を挟んできたのは、誠志郎の先輩でもあり、耕作の後輩でもある美形―有田克也だった。
「なんで課長が?ウチには関係ないじゃん」
ヤミブンのメンバーは組織が特殊なので、人材も特殊な能力を持つ者が集まっている。
克也は陰陽師、耕作はオサキ持ちである。
誠志郎は、レモン色の前髪のおかげで、見たくないものを見てしまう『妖怪アンテナ』を持っている。
何の能力を持たない人間がヤミブンに入ってくるのは、絶対ありえない。
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